戦時中の化学兵器実験施設(中編2)
【オカルト】【カミカゼエース先輩シリーズ】戦時中の化学兵器実験施設(中編1)の続きです。
急いでその玄関に戻って開けようとしたが、どうやっても開かなかった。
「もしかして外に誰かがいて、オレ達が中に入ったのを見て閉じ込めたんじゃないのか?」
「え、そんな、だってここに来るとき、他に道なんてなかったですよね。誰かが後ろをついてきたような気配もしなかったし」
と、そこまで言って、Kさんがついてきていないことに気づいた。
「あれ? そういえばKさんはどうしたんですか?」
「ん? そういやKがいないな。さっきの部屋にまだ残っているのか?」
そこで部屋に戻ってみると、Kさんはさっきいた場所にうずくまっていた。
「おい、Kどうしたんだ? なんかやばそうだから、もう帰るぞ!」
「あ、あれ?? 返事がないですね」
「おい、どうしたんだよK。おいってば」
S先輩がKさんの体を触ろうとした瞬間、突然Kさんが立ち上がってこう言った。
『どうして誰も迎えに来てくれないの?』
えっ、なんかKさんの様子がおかしい。しかもKさんの声じゃない。子どものような声だ。誰なんだ?
「おい、Kふざけるのはやめろ。とっとと帰るぞ」
『ずっと、ずっとここで待ってたのに、どうして誰も迎えに来てくれないの?』
「何言ってんだよK。いい加減ふざけんな」
そう言ってS先輩がKさんの手を取ろうとした瞬間、KさんがS先輩を片手で軽々と持ち上げ、次の瞬間、壁に向けて思いっきり投げつけた。
あまりに突然のことで自分はどうしようもなかった。
S先輩は壁に叩きつけられ、その衝撃で気絶してしまった。
「S先輩! 大丈夫ですか!」
自分はすぐさまS先輩のもとに駆け寄ったが、その次の瞬間、首根っこをつかまれ後ろ向きに倒されてしまい、床に仰向け状態になった。
そしてKさんが自分に馬乗りになって、自分の首を絞めてつけてきた。
な、なんだ!? どうなってんだよ!
『どうして誰も迎えに来てくれないの? どうして誰も迎えに来てくれないの?』
とても小柄なKさんの力とは思えない強烈な力で、自分の首をどんどん締め付けてくる。
Kさんの手をつかんで退けようとしたが、とても無理だった。
や、やばい。だんだん意識が遠のいてきた。こ、このままじゃ死ぬ……。
その時、かすかにKさんの声が聞こえた。
「む、胸にあるぺ、ペンダントを……」
わずかではあるが、Kさんはまだ正気が残っているようだ。
Kさんの首のところを見るとペンダントのチェーンらしきものが見えた。
そうか、服の中にペンダントがあるんだな。それをどうすればいいんだ?
「ぺ、ペンダントを……取って……くださ……い」
朦朧とした意識の中、自分の最後の力を振り絞ってペンダントを取ろうとしたのだが、正確にチェーンをつかむことができず、よりによってKさんの胸を思いっきりつかんでしまった。その次の瞬間。
「きゃー!!! どこ触ってるんですか!!!」
突然いつものKさんの声が聞こえ、自分は顔に強烈な平手打ちをくらい、そこで自分の意識が途切れた。
ただ意識が途切れる瞬間、手に残ったとても柔らかかった感触を反芻し『我が生涯に一片の悔いなし』
そう思ったことだけは、今でもはっきりと覚えている。
「……Bさん……Bさん、大丈夫ですか?」
誰かが自分を呼んでいるような気がする。誰だ?
「Bさん、大丈夫ですか?」
そこでやっと目が覚めた。自分を呼んでいたのはKさんだった。
「あれ、Kさん普通に戻ったんですね、ってゲホゲホ、まだ喉が痛い」
「すみません。全部私が悪いんです。あのぬいぐるみにはまったく悪いオーラを感じなかったので、すっかり心を許してしまったんです。まさか自分の意識が完全に支配されてしまうほど強い思念を持っていたなんて……。今はペンダントの力で封印したので大丈夫ですが、まったく油断していました。本当にすみませんでした」
「ゲホゲホ。そ、そういえばさっきもペンダントって言ってましたけど、それって何なんですか?」
「このペンダントは、お婆ちゃんからもらった護身用のお守りなんです。私みたいに霊感が強いと、たまに悪い霊が私を気に入ってとり憑こうとすることがあるんですね。それを防ぐためのお守りだったんですが、今回はさっきも言ったとおり自分から心を許してしまって無防備な状態だったので、お守りが効かなかったようです」
「あと気になっていたんですが、ぬいぐるみって何ですか? 自分達にはまったく何も見えませんでしたけど」
「あぁ、それはこれです」
と言って見せてくれたのは、干からびた紐? のようなものだった。
「これって何ですか?」
「これは”へその緒”だと思います。おそらくその亡くなられたお母さんがぬいぐるみの中に入れておいたんでしょうね。母親が自分の余命が長くないことを知り、自分の子を残して逝くことを心残りに思って、手作りのクマのぬいぐるみを作った。そして確かに自分と我が子が繋がっていた証である”へその緒”をその中に入れておいたんだと思います。その母から子への想い、そして子が母親を思う想いが、強い思念となってこの”へその緒”に宿った。長い年月を経てクマのぬいぐるみは風化して形がなくなってしまったけれど、思念はそのままずっと残り、たまたま私の感情の波長と合ったせいか、私にだけそのぬいぐるみが見えたんだと思います」
なるほど、ここに入ってきた時からKさんの様子が変だったのは、その思念と波長が合ってしまったせいだったんだな。
ということは、もしかして最初からこの”へその緒”がKさんを呼び寄せたのかもしれない。
そして、その仮説が正しければ、あの最初開かなかった玄関も、Kさんだったからこそ開けられたのかもしれないな。
戦時中の化学兵器実験施設(後編)に続きます。