○○峠の走り屋(前編)
【オカルト】【カミカゼエース先輩シリーズ】「○○峠の走り屋」編
前回Kさんがやばい目にあってしまったせいで、Kさんはお婆さん(Kさんの実家の神社の宮司をやっててめっちゃ霊能力が高い)にこっぴどく叱られてしまい、お婆さんから許可が下りるまでKさんはオカルトスポットへ行くことが出来なくなってしまった。
それでいい加減、S先輩も諦めてくれると思いきや、またどこからかオカルトスポットのネタを仕入れてきたようで、嬉々として自分に連絡をよこしてきた。
「おい。今度は○○峠に肝試しに行くぞ」
「えぇ、またですか……。しかも○○峠って、それってどんなオカルトスポットなんですか」
「その○○峠は昔は走り屋の常連コースだったらしい。週末の夜になると、かなりの数の走り屋や、それを見に来た野次馬ですごかったらしいぜ。ただその手の話の常として、その峠で事故が多発してな。そのため警察がカーブのセンターラインにポールを立てたり、急カーブの手前にはスピードバンプを設置したんで、それ以来走り屋はいなくなった。だが、それでもあえてそういうところに挑もうとする奴がいたんだよ。そいつは黒のインプレッサに乗っていて、走り屋の中では知らない奴はいない、というほど有名な奴だったらしい。なんてったって後ろにその黒のインプレッサが近づいてきたら、どんな走り屋でも道を譲るくらいだったらしいからな。そしてある日の深夜に、その走り屋が知り合いの走り屋と、どちらが度胸があるかという競争をやったらしい。その競争っての、どんなやつだったと思う?」
「えっ? 普通にどっちがふもとまで早く着けるか競争したんじゃないですか?」
「おいおい。それじゃただの競争だろうが。やったのは度胸試しなんだよ。その度胸試しってのが、峠の頂上にある駐車場からふもとまで、真っ暗な峠道をライトを消して走る、というバカげたものだったんだよ」
「えぇ!? それ、あり得ないっすね」
「だろ? ただな。その走り屋はこの峠道を熟知してて、どこにどのくらいのカーブがあるか、目をつぶってでも走れるって豪語してたらしいから、余裕だと思ったんだろうな。最初に相手が走って、次に走り屋がその後ろに続いて走ったんだが、相手はさすがに途中で怖くなって、急カーブ手前の道路脇で走るのをやめたらしい。だが、それを見た走り屋が、急に怖気づいた相手を見て慢心したのか、そのままのスピードで急カーブに突っ込んで行ったんだよ。しかし自分の腕を過信し過ぎたせいで、急カーブ手前のスピードバンプをモロに踏んでしまってコントロール不能になり、ガードレールを突き破ってそのまま崖から転落し即死した。それ以来、深夜にその峠道を走っていると、いつの間にかライトを消した黒のインプレッサがぴったりと後ろをついてくるらしい。しかもどんなにスピードを出して振り切ろうとしても無理で、それに焦ったドライバーが件の急カーブのところで事故を起こすという話だ。そして、その黒のインプレッサこそが、走り屋の霊なんじゃないか? という噂が立ってるんだよ。どうだ? ぜひ行ってみたくなっただろ?」
「嫌です。だって、今回はKさんはついてこれないんですよね。しかもついてこれたとしても、そんな危ないことにKさんを連れまわすのは絶対だめです。そして、それが本当にやばい霊だったらどうするんですか?」
「ああ、その件なら大丈夫だ。Kからはもしものときの切り札を預かってるからな。ということで今週末行くから、ちゃんと支度して待ってろよ。じゃあな」プツッ。ツー、ツー。
「って、ちょっと! あーあ。行くと返事してないのに、また勝手に決められちゃったよ。まぁどうせ拒否したところで強制的に連れて行かれることは間違いないから、何言っても無駄なんだけどな……」
そして週末当日。いつものようにS先輩が迎えに来てくれて、○○峠とやらに向かった。
「それで、その切り札っていうのは何なんですか?」
「ん、ほれ、そのフロントコンソールのところに置いてあるやつだよ」
見ると青地の紙に凡字? のようなものが書かれたお札のようだ。
「これは何か悪い霊が近づいてきて、オレ達の身に危険が迫ると赤い色に変色するらしい。そうならないよう気をつけて、だってよ」
オカルトレーダーってところか。さすがKさん。ちゃんと自分達のことを気にかけてくれているのが嬉しかった。いつもいつもすみません。
「だから、おまえは常にこれ監視しとけよ。そして色が変わったらすぐに教えろよ」
「まぁ、わかりましたよ。S先輩もあまり無茶な運転はしないでくださいね」
「そんなの当たり前だのクラッカー」
ちょ、いつの時代のオヤジギャグだよ。まったくいい加減にしてほしいんですけど。
他にもS先輩は、事あるごとにくだらねーオヤジギャグを連発していたが、そうこうしているうちに目的地である○○峠のふもとに到着した。そして自分達はその峠の頂上にある長距離ドライバー用休憩所の駐車場まで行き、そこに車を止めた。ここが例の競争のスタート地点になったところのようだ。
この駐車場は結構広い。これだけ広いと、昔は走り屋やそれを見に来た野次馬にとっては、格好の溜まり場だったことは容易に想像できる。
「それで、どうするんです? このままふもとまで峠を降りてみますか?」
「うーん、そうだな。噂によると深夜の2時ごろあたりが一番そういう噂が多いらしいんだが……。まだ30分くらいあるな。もうちょっと待ってみるか」
○○峠の走り屋(中編1)に続きます。