置いてきぼりの木馬
DMC-GF1 20mm RAWモノクロ現像
東日本大震災以前、ここにはアパートがあり、この木馬はそのアパートの小さな遊び場に設置されていたものだ。
だが今は津波で被災したアパートは取り壊され、周りはただの荒地になってしまっている。
そんな中、なぜそうしたのかはわからないが、この木馬だけが残されたままになっていた。
以前は、毎日のようにアパートに住む子ども達に遊んでもらっていたであろう木馬。
時には子ども達同士で取り合いになるくらい人気があったかもしれない。
しかし今は、まるで子ども達に置いてきぼりを食ってしまったかのように、荒地の中に佇んでいるだけだ。
おそらく、このまま誰にも見向きもされず忘れ去られた存在となり、あとは風雨にされされ朽ちていくのを待つだけだろう。
自分にはこの見捨てられたようにしか見えない木馬にひどく悲しさを感じ、同情を禁じえなかった。
だがその時、木馬が自分にこう語りかけてきたような気がした。
僕がここにいるのには理由があるんだよ。
もし僕がここからいなくなってしまったら、子ども達が僕のことを探しに来た時に、見つけることができなくて悲しい想いをさせてしまうよね。
前と同じ場所にさえいれば、すぐに僕を見つけてもらえる。だから僕はここにいるんだ。
そして、また昔のようにいっぱい遊んでもらうんだ。
そのために僕はずっとここで子ども達が戻ってくるのを待ち続けるつもりだよ。
自分はそれが永遠に叶わぬ夢だということを知っている。実は木馬自身もそれに気づいているかもしれない。
それでも木馬はここで待ち続けるのだろう。
子ども達の笑顔に再び出会えることを信じて。